元K-1ファイター・プロ格闘技二冠王で、プロボクシング第48代・第50代 日本ミドル級チャンピオン(1998年東日本新人王・全日本新人王獲得)、シュートボクシング日本スーパーウェルター級チャンピオンの鈴木悟。現在はボクシング・キックボクシングジムTAKE IT EASYの代表を務め、柔道、空手、合気柔術、ボクシング、キックボクシングと20年以上の格闘技経験で培った独自のトレーニング方法から編み出した「効率的な体の使い方」を、格闘家だけでなく一般の人にも教えている。
鈴木悟が現役を退いてもなお、若く強く健康的なのは一体なぜだろうか。
その理由に、#exercise #nutrition #rest 3つの側面から迫る。
#Exercise
トレーニングのはじめはスローな動作から。ストレッチはしていない。
―鈴木さんは、日ごろどのような運動・トレーニングをしていますか?
最近はウェイトトレーニングがメインです。腕立て伏せや懸垂などの筋トレは昔から好きだったのですが、それに加えてキックボクシングの動きもトレーニングとしてやっています。
頻度は、できるだけ毎日、時間が空いた時に1~2時間やっています。
―水分補給の仕方やストレッチなど、運動の中で気にかけていることがあれば教えてください。
実は、僕はストレッチの効果をあまり感じていないんです。きっとストレッチが下手くそなんでしょうけど、ストレッチは痛いしつらいし、あまり気分が良くなるものでもないのでやりません。
ストレッチで怪我を回避できるとか疲労回復できるとかよく言いますけど、僕は現役で試合をバンバンやっている時から全然ストレッチをしていないんですよ。
なので、トレーニングはいきなり始めます。キックボクシングの動きは、パンチやキックなど手足を大きく動かすものが多いので、それらを軽くやると、体をほぐしているような感覚になるんですよね。スローで始めていって、だんだんと動きを激しくしていっています。
「格闘技を続けたい」という想いのもと始めたボクシング。
―鈴木さんは、いつからボクシングを始められたんですか?
18,9歳の頃です。いろんなきっかけがあるのですが、まず1つに、もともと武道や格闘技が好きだったという理由があります。中学時代から柔道をやってきて、そのあとも空手をしたり合気柔術をしたりしていたので、これをそのまま職業にしたい、プロの格闘家になりたい、と思ったんです。
そう思ったときに選択肢としてあったのは、キックボクシングかボクシングか、プロレスか総合格闘技だったんですが、当時は今みたいに総合格闘技というのはメジャーではなかったので、残りの3つの中からまずはボクシングを選びました。
あとは目立ちたがりで芸能人になりたかったので、どうやったら芸能人になれるかなと考えたときに、ボクシング界の先輩たち(ガッツさんとか輪島さんとか具志堅さんとか)がテレビに出ているのを見て、「ボクシングから有名になる道もあるんだ!」と思ったのもきっかけの1つでしたね。
―そうだったんですね。柔道からボクシングへ転向していくにあたって、困難はありましたか?
いや、逆ですね。僕は柔道の方が向いていなかったというか。プロレスを選択肢として諦めた理由ともつながるんですが、柔道はがっちり大きい体でないといけないのに、僕の場合はいくらご飯を食べても全然体格が良くならなくて。
背だけ大きくなっても、柔道はすぐに担がれてしまうんですよね。プロレスも同様で、この体をつくるのは自分の体質上難しいだろうなと思って、選択肢から外しました。
ルーティーンは作らない。何にでも対応できるように、無形でありたい。
―日々のルーティーンはありますか?
ルーティーンは全くありません。ルーティーンが成功したときは心強さに繋がるかもしれないですが、もし打ち崩されたらどうするの?出来なかったらどうするの?と、不安要素の方が大きくなってしまうんですよね。
なので、型を作らないほうが僕は好きです。生活の中でもルーティーンは特にないし、ボクシングで実際に試合に出ているときなども、型を作りません。何にでも対応できるように、無型でありたい。だからこそ、ルーティーンは持ちません。
―運動へのモチベーションが上がらないときはありますか?
めちゃめちゃありますよ。そういう時は、一瞬、自問自答します。そこで、じゃあやろう、という気になれなかったらやりません。すぐに切り替えて、その時にやりたいこと、やるべきことなどをやるようにしています。いつまでもどうしようかな、とはせず、そこは潔く。
いつも同じ水準の練習をし続けることで、気持ちのムラを作らない。
―今どんな体にしたいなど、目標はありますか?
そうですね、現役時代はずっと減量をしていて、特に試合のときは10キロ以上体重を絞って臨んでいたので、体を大きくしたくてもできる環境ではなかったんですよ。でも今は試合から少し離れているので、筋肉を大きくしたいです。
特に上半身。胸・肩・背中を鍛えてウェストをぎゅっと絞ったような逆三角形を目指したいですね。減量しなくてよくなった分体が大きくなってきたし、もっと大きくしたいという気持ちがあります。
―今、一番のモチベーションになっていることは何ですか?
僕は、あまり気持ちの起伏を作らないんですよ。それに伴って、モチベーションになるものもあまり作りません。これは現役時代からです。
例えば1,2か月先の試合が決まったときに、そこから試合に向けてぐっと集中的に練習をしていく、という人は多いと思います。でも僕は全く逆で、試合が1,2か月先に決まろうと、ペースを上げもせず下げもしません。
試合が決まっていなくてもトレーニングの質や量を落とさないし、試合が決まって試合前期間に突入しても、そのままのペースでトレーニングを続けるんです。そうすることで、ピークを試合の日に持っていきたいのに、ピークが早くきてしまって試合で失敗する、といった調整ミスを防いでいます。
ちょうどよい水準は、自分の経験からわかってきます。先ほどお話したように、時には潔くトレーニングをやらないことも、このちょうどいい水準を保つための1つの方法かもしれません。
休みの日やトレーニングをやる日、というのも明確に決めていません。休む時は休むし、逆に1、2週間休みなしでぶっ続けなんてこともあるんですよ。休みたいときに休めるように、トレーニングはいつも同じ水準でしっかりやる。そうすることでムラもなくなると考えています。
運動は、体の機能低下を防ぎ、活性化してくれるもの。
―鈴木さんにとって、運動はどのようなものですか?
予防医学という言葉があるように、運動は体の機能の低下を防いでくれる気がします。昔からそう思っていたというよりは、ジムに来て下さるお客さんの様子や自分自身の体感も併せて、近年そういう風に思うようになったという感じですね。
また、運動は体を活性化させるものでもあると思っています。現役の時はあまり感じていませんでしたが、同級生と比べても元気な気がしますし、見た目も若いとよく言われます。アスリートとしてずっと運動に打ち込んできた分、体が活性化しているのかもしれないと最近感じています。
―運動について、読者におススメしたいことはありますか?
健康診断でちょっと悪い結果が出てしまったから運動をしないと、など、運動に取り組もうとする姿勢はとても良いのですが、いきなり皆さんハードな運動を選んでしまうんですよ。でも、そんなに最初からハードにやる必要は全くないんです。
例えば、皆さんが手っ取り早いと思って飛びつきがちなのがランニング。でも、ランニングってめちゃめちゃハードな運動です。息をぜーぜーさせて、汗をだらだら流すような運動なんて、最初からやらなくていいんです。
まずは1時間くらい散歩をする、プールで歩く、くらいから始めていくのがおススメです。運動をしようという意識はとても良いことですが、最初からハードにやりすぎないことが大切です。
#Nutrition
おススメの食材は肉。ダイエットにも効果あり?
―日ごろ食事で気を付けていることはありますか?
一切ないです。何も気にしていません(笑)お酒は普段はあまり飲みませんが、みんなで食事に行くときは沢山飲みますし、肉ばかり食べることもありますし。
食事の回数に関しても必ず3食食べるなんてことはないし、もはや何にも食べない日だってあります。夜に1日1食が多いかもしれません。食べなくても死なないし、大丈夫なものですよ。僕から見たら、世の中の人は食べ過ぎな気がします(笑)
―おススメの食材などがあれば教えてください。
おススメは肉です。職業柄かもしれないですが、周りに肉を食べてダイエットしたという人も結構います。肉を食べると太るといった意見も世間にありますが、それはやっぱり脂身を多く摂ってしまっているだとか、肉を食べるときに一緒になってごはんを沢山食べてしまっているだとか、そういったところに原因があるのではないでしょうか。
肉に使う調味料も、太る原因につながっているかもしれないですよね。僕なんかは減塩派なので、お肉を焼いたら何もつけずにそのまま食べますよ。お肉の中でも、牛の赤身がおススメです。赤身を食べて痩せたという話もよく聞きますし、体には良いんじゃないでしょうか。
色々な方法を試す中で、自分に合ったものを見つけ出す。
―糖質、炭水化物制限など、日ごろ制限しているもの(こと)はありますか?
今はしていないですが、僕は制限に賛成派です。過去に糖質制限をやったことがありますが、とても成果が出たんです。体調が良くなりましたし、体重も落ちた経験があるので、僕は僕の経験に基づいて、糖質制限は良いと思っています。ただ、合わない人も絶対いると思うので、「僕の経験上ですけど、」と前置いた上でおススメしています。
糖質制限といっても、絶対ゼロにするというよりは、目に見えて食べない方が良さそうなものを減らしていく、といったイメージでしょうか。緩くで良いと思います。
―そういった、栄養バランスや糖質制限などについての知識はなにから得ることが多いですか。
そうですね、本は色々読みましたし、その中で自分に合ったものは何か見つけるために、色々と試しました。良いと思ったものを更にカスタマイズして、自分に効果が出るものを見つけていくんです。
一般に言われていることが自分の体にとって良いかと言ったら全然そうとは限りません。色々な方法がある中で、自分の体に良いものを見つけることが大切だと思います。
―食事や栄養摂取で過去に失敗談があれば教えてください。
あまり感じたことがないですね。強いて言うならば、僕はお米を沢山食べるとおなかを壊してしまいます。最初はお米が原因だと気づいていなかったんですが、お腹が痛くなる共通点を探してみたら、お米を沢山食べた時だったんですよね。
でも、こうやって自分の体について考えたり知ったりすることは結構大切だと思っていて。外からの情報だけじゃなくて、自分の体が発信している情報についてももっと敏感になってほしいです。自分の内側の情報を得た上で、それらを外からの情報と照し合わせられると良いですね。
#Rest
日常生活の中にも、適度な体のリセットを。
―日ごろ、睡眠で気を付けていることはありますか?
毎日湯船につかることは心掛けています。長いときは1時間以上つかっているかもしれません。お湯の温度は43~44度くらいですね。
―ストレッチ、マッサージ、コンディショニングで、気を付けていることがあれば教えてください。
座りっぱなしの時間があったら途中で体を伸ばすなど、日ごろから体をリセットすることですかね。重力の関係もありますし、座ってデスクワークなんてしていたら余計に、体は自然と縮こまってしまうんです。だから、意識して途中で伸びをしたり、歩くときにも姿勢を意識したりすることが大切です。
キックボクシングの動きも、足や手を大きく動かすことで縮こまっていた部分を解放するので、リセットの動きになると思います。そんなに意気込んで、大きくストレッチしよう、と思わなくても、普段丸まってしまっている部分を伸ばしてあげるだけでかなりの体のケアになると思います。
―過去と比べて、休養について考え方に変化はありましたか?
ないですね。むしろ、アスリートとしてハードにやってきた分、今ぐらいのトレーニング量だとハードさを感じないというか、毎日やっても大丈夫じゃないか、と思ってしまうんですよね。怪我をしたとき以外は、休養しなきゃ、という気持ちはあまりないかもしれないです。
#Boxing
―ボクシングがダイエットや体づくりに良いと巷でブームですが、ボクシングはなぜダイエットや体づくりに良いのでしょうか?
ボクシングは、運動を長い時間続けるやり方の1つとして取り組みやすいんだと思います。例えば、ウォーキングをしたり、ランニングをしたり、水泳をしたりを60分やろうと思うと、単調だから途中で飽きが来てしまいますよね。だからこそ、動き続けやすいメソッドを皆さん探しているのではないでしょうか。
エアロビクスやダンス、キックボクシングなどは、動きが色々組み合わさっていて、それを覚えたりステップアップしていったり、とすると時間も一気に経って、退屈しないはず。そういった点も、ダイエットや体づくりの面でも注目を浴びている理由の1つだと思います。
―鈴木さんのジムでは、そういったボクシングの特性も理解した上でレクチャーしてくれるんですね。
はい。特にうちでは、パンチやキックなどの基本的なボクシングの動きを教えるとともに、効率的な体の使い方も指導しています。しかも、この効率的な体の使い方は、キックボクシングだけではなく日常生活での体の使い方にも直結するようになっているんですよ。
要は、日常生活で私たちがしている動作というのは小さなものばかりで、それらを大きく動いているのがキックボクシングなんです。逆に言えば、キックボクシングでの動きを縮小してあげれば、日常生活にも適用できるんですよね。
例えば階段の上り下りですらつらい人は、そこがその人の動きの範囲のマックスで、いつもフル稼働をしているからすぐに疲れてしまうわけですが、キックボクシングの動きを取り入れて足を高く上げるなどで動きの幅がぐっと広がれば、階段の上り下りくらいなんてことなくなるはず。
僕はよくこのことを車に例えて話すんですが、日本の一般道って法定速度だと時速60キロですよね。でも、車は180キロまで出せるように設計されている。「そりゃあスピード違反しちゃうじゃん!」と思うかもしれません。
でも、時速60キロまでしか出ないエンジンを作ると、常にエンジンがフル稼働で悲鳴をあげながら走ることになるんですよ。だからこそ、法定速度の3倍の時速180キロまで最大出せるエンジンを作る。そうすれば、時速60キロで走ることも楽勝なはずです。
先ほど、運動は体の機能低下防止に良いとお話ししましたが、僕のジムでは体の機能低下をさせないため、低下してきてしまっている方も機能を良くしていくためのキックボクシングを指導しています。体の機能低下を予防・改善するためのツールとして、キックボクシングを用いている、といった感じでしょうか。
ぜひ一度体験してみてください!
鈴木悟
【略歴】
元K-1ファイター・プロ格闘技二冠王で、プロボクシング 第48代・第50代 日本ミドル級チャンピオン(1998年東日本新人王・全日本新人王獲得)、シュートボクシング 日本スーパーウェルター級チャンピオン
1997年 八王子中屋ジムよりプロデビューし、翌年新人王獲得
2000年 ヨネクラジムの保住直孝より日本ミドル級王座をKO勝ちで奪取、以降9度の防衛(歴代2位)に成功 WBA世界ミドル級10位
2005年 K-1転向 魔裟斗、マイク・ザンビディスらと対戦
2008年 キックボクシング、2010年 シュートボクシングに参戦
2011年 シュートボクシング日本スーパーウェルター級王座獲得
2012年 アンディ・サワー、ボーウィー・ソー・ウドムソン、トビー・イマダ、ヘンリー・オプスタルなどの世界の強豪と対戦
2013年 シュートボクシングでの活躍を続ける
2013年1月西麻布にプライベートレッスンスタジオ TAKE IT EASYをオープンし、柔道、空手、ボクシング、キックボクシングと20年以上の格闘技経験で培った独自のトレーニング方法から編み出した「効率的な体の使い方」を、格闘家だけでなく一般の人にも指導している。
【トレーナー資格】
BFRトレーナー
リフレッシュエクササイズ KAZEprep インストラクター
NESTA ハートレートパフォーマンススペシャリスト
adidas FUNCTIONAL TRAINING Trainer